鳥獣悪戯について

江戸時代の絵師長沢蘆雪は、無量寺の襖にある虎図が有名で、この襖三面に大きく描かれた型破りな虎は、一目見ると忘れられない印象を残します。私はこの漫画のような可愛らしい虎が、当初好みに合わず、これは虎と言うより猫ではないかと思っていました。現在職場でとつおいつ読んでいる「奇想の系譜」(辻 惟雄著 筑摩書房)によると「『蘆雪が虎を描こうとして描けなかったとは思われない。松江市西光寺、奈良薬師寺などに精悍な虎図を見るからである。筆者は皮肉な蘆雪が胸中ひそかに戯気を描いて巨大な猫を描いたのではないかとさえ想像する』という山川武氏の見解に同意したい。」とありました。事実、長沢蘆雪の描いた他の絵には目を見張るものが多いと感じます。著書の中でこんな文章に注目しました。「酷評すれば、師応挙の亜流であることをいさぎよしとせず、種々奇想をこらしてそれからの脱出を終生心がけながら、師の画風をあまりにも完璧に身につけすぎた器用さが仇となって、結局のところ、応挙という〈水〉を離れることはできなかったようであるし、晩年のグロテスクへの傾倒も、蕭白というその道の天才の後とあっては、しょせん二番煎じを免れなかったといえそうである。しかしながら、蘆雪の面目は、何といっても、南紀での諸作に最もよく発揮されたような、大画面を縦横自在に馳せめぐる線描の達人としての水際立った腕前にあり、この点、『鳥獣戯画』や『将軍塚絵巻』以来の、線の芸術としての日本絵画の伝統を、十八世紀上方の庶民的な世界に再現した画家として評価されるべきかもしれない。」長沢蘆雪の生きざまが垣間見れるようで楽しい感想を持ちました。

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