「歩行」と「ユニット・オブジェ」

東京虎ノ門にある菊池寛実 智美術館で開催している「八木一夫と清水九兵衛 陶芸と彫刻のあいだで」展で、私は2人の巨匠のうちそれぞれ1点ずつの作品を選んで感想を述べたいと思います。まず八木一夫は「歩行」です。バランスが悪くて立たないのか、作品は壁に沿って置いてありました。「歩行」はいくつかのカタチを組み合わせたレリーフという按配です。自分が作り続けている「発掘シリーズ」に近い作風があって、とても親近感を持ちました。ただし、同作品は人体を抽象化するまでデフォルメしていて、有機的な彫り込みや突起物があって、ユーモラスな感じです。八木一夫の代表作「ザムザ氏の散歩」にも見られる傾向ですが、表情を持った陶彫が歩き出しそうな仕草をしています。あたかも幼児が立ち上がってヨチヨチ歩きをしたような印象です。抽象形態なのに、何かホッとするような温かさを感じるのは、陶芸という手作業から作り出されたものだからでしょうか。八木一夫の作品にはスペインの画家ミロのような奔放な線描が施してあるものがあって、心が解放される楽しさが漲っています。幾何抽象に近づいていても決して冷たくならない要素があるのです。清水九兵衛は対照的な作家です。私は最初に見たのがステンレスの彫刻だったためか、設計された造形という要素が強く、鋭利な抽象形態を頭に思い浮かべます。美術館に並べられた作品では「ユニット・オブジェ」に注目しました。八木一夫と同じ陶芸なのに、手作業を突き放していてシャープに土を扱おうとしています。「ユニット・オブジェ」には一輪挿という別のタイトルがつけられていて、それがなければ用途には気がつかない造形です。16個の展開があって、縦横に並べられていると、自分の集合彫刻と同じ雰囲気を醸し出していると思いました。同じ形態が少しずつカタチを変えているのを見るのは、私は感覚的に大好きで、時間を忘れて作品の前に佇んでしまいます。清水九兵衛は7代目六兵衛として陶芸界でも活躍されたようですが、私にはどうしても簡素で力強いステンレスを扱う彫刻家の方がしっくりするのです。最初の図版での出会いが衝撃的だったせいかもしれません。野外で空を映し出し、光に反射するシンプルな現代彫刻、私は10代でそれを見て、都市の中に置かれる彫刻の可能性を感じたのでした。当時はまさか自分が陶彫をやるとは思いもせずに、清水九兵衛の野外彫刻を眺めていました。

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