「住吉の長屋」建築の原点

先日より「安藤忠雄展」について書いています。個展会場である東京六本木の国立新美術館には、実寸大の「光の教会」を初め、多くの巨大な展示が後半部分の空間を占めていて、まさに壮観な感じがします。ヨーロッパの古都では歴史的建造物をそのままにして、内部にコンクリートの壁で囲まれた空間を挿入して、現代美術館に再生したプロジェクトがありましたが、街の景観を残すコンセプトに、私は賛同いたします。豊かな自然を取り入れた建造物も、立地を生かす工夫が凝らされていて、未来の建築のあり方を見ているようで、その発想に驚いてしまいます。その原点は、安藤氏がまだ駆け出しの頃にデザインした、狭い路地に建つ長屋の再生ではなかったかと思います。図録の中にある本人の文章を引用します。「私の建築活動は、都市住宅の設計からスタートしました。そのひとつひとつの仕事に無我夢中で取り組み、試行錯誤する中で『徹底して単純な幾何形態の内に、複雑多様な空間のシーンを展開させる』あるいは『コンクリートという現代において最もありふれた素材をもって、どこにもないような個性的な空間をつくりだす』といった、今日に至るまでこだわり続けている、私なりの建築のテーマが見つかりました。その意味で、私にとって住宅こそが建築の原点です。」安藤氏は大阪の三軒長屋の中央の一軒をコンクリート打ち放しのコートハウスにしました。中庭があるため、雨天の日の部屋から部屋への移動には傘が必要となる住宅ですが、そこに住む人が多少の不便を抱えても、「住吉の長屋」に住みたいと思うのは空間の美しさ故でしょうか。建築家の個性に惚れぬいた人なら、それも可能でしょうが、生活雑貨に溢れた無秩序な生活ぶりになってしまう可能性がある人は、自分を律することの方が厳しいかもしれません。

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