六本木の「安藤忠雄展」

建築家の展覧会は、他の芸術分野に比べると図面や模型がほとんどを占めるため、空間的な面白みを感じないことが多いのですが、先日見に行った東京六本木の国立新美術館で開催している「安藤忠雄展」はまったく展示の様子が異なり、アナログで巨大な模型や鉛筆デッサンを思わせる壁画のような図面やデジタルな建築映像によって、思わず惹きこまれる展覧会になっていました。安藤氏本人が図録の中で書いていることが、そのまま建築家としての苦しかった歩みを物語っているように思えます。「最初の10年くらいは、まず設計の仕事が中々得られない、かろうじて見つかっても敷地も狭く、予算も乏しい…といった状況で、その逆境をいかに乗り越え、自分なりの思いを実現できるか、建築を職業としていくこと自体が挑戦でした。」ここではその一部の紹介に留めますが、独学で建築を学んだ安藤氏が、持ち前のバイタリティと優れた感覚で難題に挑戦していく姿勢は、人生観として見習うべきところが満載です。批評家からの文面の中にも安藤建築の独特なアプローチを見つけることが出来ます。「多種多様な意匠の引用をアイロニカルにコラージュしてみせる磯崎新流のポストモダニズムに対し、一切の無駄を省いたミニマルなコンクリート打ち放しの壁がハードボイルドな印象を与える安藤建築をモダニズムの延長としてとらえることもできるだろうが、都市への広がりをいったん切断するそのラディカルな姿勢ゆえにそれをポストモダンとみなすというのがここでの私の見方である。~以下略ですが、ベネッセアートサイト直島に話題が移行したところで、~建築家はそこで派手なデザインによって自己主張しようとはしていない。地形や眺望を見極めて最適な軸線群を選ぶ。それらに沿って、それ自体としてはシンプルな幾何学的形態の建築を自然に埋め込むように配置する。ただ、内部に眺望や光や風がうまく取り込めるようさまざまな工夫を凝らす。それによって、外延的にはさほど大きくなくとも内包的にきわめて豊かな空間が生み出されるのだ。」(浅田彰著)個々の展示物については機会を改めて書こうと思っています。

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