劇画「運慶」読後感

東京上野の国立博物館で開催されている「運慶展」のギャラリーショップで面白い書籍を売っていました。運慶を主人公にした劇画です。作者は劇画の創始者として第一線で活躍するさいとうたかを氏で、私は学生時代に「ゴルゴ13」を愛読していたので、さいとう流タッチには親しんでいました。運慶は写実を極めた仏像によって、日本美術史に確固たる地位を築いた仏師ですが、これを漫画ではなく劇画にしたというのが運慶らしさを出していて、その合致性と発想がいいなぁと思いました。運慶が生きた時代は平安時代から鎌倉時代で、もちろん当時の詳細な歴史の記述はなく、後世に残された資料だけで物語を紡いでいくため、フィクションが入り込む余地は充分あると思います。さいとう流のフィクション・ドラマは面白く展開し、傍若無人で自由闊達な運慶像を描き出していました。動の運慶に対峙するのは静の快慶で、精神性を極めた快慶もその存在感を示していました。劇画は展覧会を見たその日のうちに読み終えてしまい、その晩の夢枕にさいとう流タッチの運慶が現れ、一心不乱に木彫をやっていました。彫刻家はこうあるべきだという道を運慶が私に示したように錯覚し、私も何かが吹っ切れた感じがしました。劇画の解説にこんな一文がありました。「本作の作者、さいとうたかをもまた、新しい表現を模索していた。従来の『子どものマンガ』に満足せず、大人が読むにふさわしい新しい画とストーリーのありようを真摯に追求していたのである。その努力と研鑽の末に開発されたのが『劇画』であったことはいうまでもない。~略~全く新しい表現の確立と、社会への力強い定着。この意味で、さいとうたかをはまさにもう一人の運慶だったのである。」(本郷和人著)

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