8月RECORDは「ひびく」

響くというコトバから連想されるのは、音楽の音色です。若い頃はウィーンにいて、彼の地の国立歌劇場に通い詰めていた時期がありました。一流のオペラが立見席から僅か数百円で観られたので、毎晩出かけていたのでした。当時、冬場は下宿先の暖房費がかかるので、歌劇場で過ごしていた方が経済的だったこともあり、貧乏と贅沢が表裏一体を成していました。私は特に音楽好きではなかったのですが、毎晩オペラに通っていると指揮者によって音響が微妙に異なることが分かってきました。ウィーン国立歌劇場のオーケストラを基準に他国のオーケストラを聴くと、音の強弱や長短も微妙に違って聴こえたりしました。音楽家にとっては当たり前なことが、私には発見の連続でした。その頃、毎晩親しんでいたオペラや交響曲は、現在はまるで聴いていません。放送やネットからデジタル音響を取ることは可能ですが、30年前に帰国してから生のオーケストラを聴くことがなくなりました。音楽会には、私は美術展や映画のように気楽に行けず、声楽家の叔父も加齢のためリサイタルを開くことが難しくなり、家内の胡弓を聴くことはあっても、西洋的な音楽の響きは本当にご無沙汰しています。今月のRECORDのテーマを敢えて「ひびく」にしました。私の頭の中にはオーケストラの響きがあります。これを視覚化したい欲求は昔からありました。画家カンディンスキーの非対象絵画がイメージの源泉になっていて、カンディンスキーやクレーのように音楽を連想する絵画を私も作ってみたいと思っています。今月も頑張ってRECORDを継続していきます。

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