「聖別の芸術」読後感

「聖別の芸術」(柴辻政彦・米澤有恒著 淡交社)をずいぶん長いこと鞄に入れて持ち歩いていました。やっと読み終えました。「聖別」という西欧の観念をキーワードに現代美術を論じた本書は、自分にとって興味関心が尽きることがなく、度々読み返すことがありました。作家論ではNOTE(ブログ)に「土谷武論」を取り上げましたが、作家全員に感想を述べたい衝動に駆られました。とりわけ陶を扱っている作家には、自分の表現活動との接点を見出し、陶の面白みを再確認しました。「山田光論」の中にこんな一文がありました。「現代陶芸という戦後に樹立される初期の荒地を墾くために、陶にまつわる過去の情緒や知性や教養といったものを可能なかぎり切り捨てる方法に手こずりながら見つめ続けた甲高い寡黙と、しからばどうつくるか、つまり東洋的な造形の基調に迫った厳格のきわどさが染みでた歴々たる前人未倒の記録である」(柴辻政彦著)というもので、陶芸の脈々と続く情緒的な伝統を否定しつつ、新しい陶を模索した「走泥社」の一人である作家の、現代陶芸への誘導路が示されていて、興味が尽きませんでした。あとがきで述べられた一文にも気を留めました。「熟年の私たちともなると、芸術を含めて、あまりに目紛しい世情の動きに段々と野次馬的な好奇心を覚えなくなる。そしてむしろ、何かしら変わらないもの、重々しいものの方に関心が移ってくる。そういう荘重なものを人間はずっと『偉大』とか『聖』といった言葉で捉えて、次世へと伝承してきたのではなかったか、と思えてくる。」(米澤有恒著)というものです。現代美術が広範囲に及んでいる昨今、私も「聖別」に拘っていきたい一人なのです。

関連する投稿

  • 荒木高子「聖書」シリーズについて 陶の造形作家荒木高子は2004年に82歳で逝去しています。独特な雰囲気を持つ陶の造形を、私はどこかの展覧会で観たことがあり、忘れられない印象があります。生前の作家にお会いしたことがなく、評論家の文章 […]
  • ピカソの陶芸の魅力 箱根の彫刻の森美術館に「ピカソ館」があります。自分にとって「ピカソ館」の目玉は、ピカソが加飾または絵付けをした陶芸の数々だと思っています。これは見応えのあるコレクションで、箱根に行く度にこの陶芸たち […]
  • 陶板による複製絵画の意義について 夏季休暇を利用して徳島県にある大塚国際美術館に出かけ、大塚グループによる大掛かりな陶板による複製品に接してきました。西洋絵画を環境展示、系統展示、テーマ展示と分けて美術史に残る作品を全て網羅している […]
  • 夏季休暇⑤ 5日間の休暇を振り返る 今日はどこかへ出かけることはしないで、今年の夏季休暇を振り返る一日にしました。7月末に2日間の夏季休暇を取りました。ここでは新潟県魚沼市を訪れて、江戸時代の彫工石川雲蝶のダイナミックな木彫に触れまし […]
  • 「佐脇健一 未来の記憶」展 先日、目黒区立美術館で開催中の「佐脇健一 […]

Comments are closed.