「伊藤若冲論」幻想の博物誌

自分の鞄に携帯している書籍は「聖別の芸術」(柴辻政彦・米澤有恒著 淡交社)と「奇想の系譜」(辻 惟雄著 筑摩書房)で、その時の気分によって交互に読んでいます。今回は「奇想の系譜」に登場する江戸時代の絵師伊藤若冲を取り上げます。伊藤若冲は最近、東京都美術館で大きな展覧会があって、その混雑ぶりが話題になったほど私たちに定着している有名絵師ですが、私が学生だった40年前は今のような圧倒的な人気を誇ることはなく、ほとんど知られていなかったように記憶しています。伊藤若冲を広めたのは1970年に初版された本書でなかったかと想像しています。写生画としては円山応挙が有名ですが、若冲は写実の正確さより画面全体を構成する象徴的なフォルムに独特な感性があって、それが現代の鑑賞眼からすると斬新で面白い印象を与えるのではないかと推察しています。本書にこんな文章がありました。「『綵絵』の画面構成は、どれも共通した特色を持っている。それは一種の無重力的拡散の状態に置かれたといってよいような空間である。波状型曲線の組み合わせに還元された動物、植物、鉱物のさまざまなフォルムが、そのつかみどころのない空間のなかで、蠕動し浮遊する。それらのなかには『蓮池遊鮎図』の蓮のように、海底都市とか、火星の植物とかいったSF的な連想を喚び起こすものや、あるいは『老松白凰図』の鳳凰の尾羽の桃色のハート型の乱舞のように、それこそサイケデリックな幻覚を誘い出すものすらある。」(辻 惟雄著)あたかもシュルレアリスムを論じているような文章で、それが現在の若冲人気を裏付けている要素であろうと思っています。

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