映画「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」雑感

仕事から帰った夜の時間帯にミニシアターに出かけ、「ヨーヨー・マと旅するシルクロード」を観て来ました。これは家内が希望した映画で、家内は胡弓奏者としてこの映画が主張する伝統継承についての確認をしたかったようでした。家内は「私がやろうとしているのは間違っていない」と何度も感想を洩らしていました。世界的なチェロ奏者として知られるヨーヨー・マは幼い頃から才能を発揮し、クラシック界では神童と呼ばれるようになりました。彼が高いモチベーションを保つため、世界の民族楽器を集めてアンサンブルを行ったのが、シルクロード・プロジェクトでした。実験的だったプロジェクトは高次元で融合されるようになり、映画では終始その響きが流れていて、その豊かな楽想に魅了されました。社会情勢が微妙なアジアや中東の音楽家たちは、伝統楽器の巧者になっても後進を指導することは叶わず、幾多の試練を乗り越えて、プロジェクトに参加していました。準主役のケイハン・カルホールはイラン出身の伝統弦楽器奏者、同じく中国出身のウー・マンは女流の中国琵琶奏者、クラリネット奏者のキナン・アズメはシリア出身、女流バグパイプ奏者のクリスティーナ・パトはスペインのガリシア出身、その他にも多彩な音楽家たちが自国の文化とともに取り上げられていました。伝統はそのままでは廃れる一方で、常に新しいコラボレーションを探り、融和と対峙を繰り返しながら、現代の民衆に合った多彩な表現を手中におさめなければなりません。これがこの映画が求めている伝統継承の姿だろうと思います。音楽の意義を問う場面が随所にあり、それは私がやっている造形美術にも通じる要素で、自分は何のために創作活動を行っているのか、この映画を観てその根幹を問いただすことになりました。家内も私も有意義な時間を過ごせたと思っています。

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