東京駅の「アドルフ・ヴェルフリ展」

東京駅内にあるステーションギャラリーは面白い企画展が多く、今まで私は幾度となく足を運びました。とりわけ2階の煉瓦壁に掛けられた作品の数々は、独特な雰囲気を纏って鑑賞する者に心地よさを与えてくれます。金曜日は遅くまで開館しているので仕事帰りに立ち寄ることが出来て、勤め人にとって有り難い配慮です。今日見に行った「アドルフ・ヴェルフリ展」は精神疾患を患ったスイス人画家の日本初の個展でした。画面全体に埋め尽くされた不思議な記号や文様、ほとんどパターン化されていると言ってよいほど執拗に繰り返される絵画は、どう見ても狂気を感じさせるものがありました。作者は31歳の時に精神科病院に収容されて、そこから66歳で没するまで延々と病院で絵画を描いていたようです。展覧会の副題は「二萬五千頁の王国」。その膨大な量はアール・ブリュットの絵画では括りきれない存在感がありました。ヴェルフリは1864年に7人兄弟の末っ子として生まれ、貧困家庭であったため里子に出されますが、なかなかの問題児であったようです。少女に対する性的暴行未遂で投獄され、その後に統合失調症という診断によって精神科病院に送られますが、そこでも暴力行為があって独房に入ったりしています。その頃漸く絵を描き始めていて、もしもヴェルフリに絵画表現がなかったら悲惨な人生が待っていたことでしょう。彼にとって創作活動は魂の救済だったのでしょうか。彼は連作を試み、「揺りかごから墓場まで」「地理と代数の書」「聖アドルフ巨大創造物」というテーマで、それぞれ多量な絵画や文章、作曲による作品が残されています。25.000ページの王国という、架空の世界を思い描いたヴェルフリは、確かに常軌を逸した芸術家であったと思いました。自分の辛い過去を自分の物語で作り変えて、創造の世界で遊ぶことは私も大好きです。それは常人にとっては現実逃避なのかもしれませんが、私も架空都市を彫刻しているので、ヴェルフリに通じる世界観を持っているのかもしれないと勝手に思い込んでいます。

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