鉛筆に親しみを込めて…

数ある筆記用具の中で、自分は鉛筆に特別な思いを抱きます。職場の私の部屋には鉛筆削りがありませんでした。今日は自宅から鉛筆削りを持参してきました。鉛筆削りはアナログなものが好きで、電動は好みに合いません。それというのも10代後半に鉛筆に慣れ親しんだ時期があるからです。美術の専門的な勉強を始めるために高校時代からデッサンを習いました。最初は木炭で石膏像を描き、続いて鉛筆に変わりました。鉛筆の複数の線を交差させて立体感を表現するハッチングも習いました。ハッチングで陰影をつけていくと、カタチが浮き彫りになっていくのが楽しくて、技巧に走ってしまった時期もありました。デッサンを立てかけたイーゼルから離れて、ゴミ箱へ鉛筆を削りに何度も足を運びました。小刀で鉛筆を削っている時が、心穏やかに休める時で、鉛筆の芯を長めに削り出してから、またデッサンに戻るという日常の繰り返しがありました。鉛筆を削っていると心が落ち着くのは、当時の経験が要因だろうと思います。今では鉛筆を小刀で削る機会はなくなりましたが、アナログの鉛筆削りを回している時は、小さな幸せを感じます。削りたての鉛筆はシャープな線が描けて新鮮ですが、次第に芯が丸くなってくると心も虚ろになってきます。ボールペンやシャープペンに見られない鉛筆独特の描き味の摩滅度が自分は好きなのです。鉛筆は線に抑揚をつけることができ、一本の線で立体感を表すことが可能です。鉛筆の発明は1500年代のヨーロッパですが、改良を加え江戸時代になって漸く日本に渡来してきたようです。そんな鉛筆に親しみを込めて今日も文字を綴りました。またデッサンをしてみようかなと思うこの頃です。

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