異界への想像力に富む暁齋

東京渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されている「これぞ曉斎!」展では、動物や鍾馗、幽霊や魑魅魍魎に至る異界の生物が跋扈する様子が描かれています。それは新しい時代の辛辣な風刺であり、ユーモアであったように思えます。ただ、絵師河鍋暁齋の画力は写実にも富み、鴉を描いたシリーズでは、たった一筆で鴉の濡れ羽を表現している巧みさに驚きました。立体さえ感じる鴉の姿態は、暁齋が画力を高めるための習練だったのではないかと思いました。落款に彫られた「万国飛」とは、海外にまで鴉が飛んでいくことを作者は予感していたのでしょうか。動物を扱った数多い作品の中で、私は蛙のモチーフに注目しました。暁齋は3歳で蛙を写生したと伝えられていますが、高山寺の「鳥獣戯画」を彷彿とさせる描写に人間社会の雛型を見るようで、心から楽しめました。幽霊のモチーフでは亡妻の臨終時の写生を元にしたと言われています。「百鬼夜行図屏風」では現代の妖怪キャラクターを見るようで、科学や論理では解決できない日本の伝承文化を垣間見たように私には感じられました。「暁齋画談」にある一文を紹介します。「雷さまは太鼓を背負い、鬼は虎の皮の褌をしめているというのと同様、幽霊の姿も想像から出たものであるので、何を真とし何を虚とすべきかは分からない。それをいかにも恐ろしげに、きっとこんなだろうと思わせるように描くのが妙手上手と言うものであろう。」最後に図録にあった異界の作品について触れた部分を引用いたします。「異界を描く作品では、暁齋は先達の幽霊や化け物の作品を参考にしていると思われるが、しかしそっくりの模写ではなく、先立つ作品を参考にしながら、そこに原作者の『筆意』を感じ取り、場合によっては自らの写生も加味し、さらにそれを上回る想像力によってさまざまな図像が作られたのである。」(及川茂著)

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