北方ルネサンスの継承

先日見に行った「クラーナハ展」が、NHK番組で取り上げられて、クラーナハが得意としたヌード絵画の分析を行っていました。肢体がリアルではないのは自分も理解していましたが、カタチの象徴化や色彩の艶めかしさを日本の写実画家が実証していて興味津々でした。クラーナハのきわどい妖しさは自分も感じていました。M・ルターによる宗教改革によって宗教画が排除され、ルターと親しい仲であっても、カトリックの宗教画の注文を受けていたクラーナハが考えた手段が、それまで踏み込んだことがないヌード画だったという時代の流れもよくわかりました。顧客の秘めたる楽しみに若い娘のヌードがあったというのも、現代の性風俗に通じるものがあって、男性の所有欲に成程と思った次第です。クラーナハは北方ルネサンスの旗手として存在を示していましたが、自分がオーストリア在住時代に度々ドイツを旅した時に感じた現代画家の画風が、クラーナハと通じるものがあるような気がしていました。北ドイツを中心に活躍しているP・ヴンダーリッヒやH・ヤンセン、J・シュマイサー、作家として実績があるG・グラス等は、まさにヌードや他のモティーフを描いても象徴的で自省的な思索が感じられて、クラーナハが蒔いた種が現代に継承されているような感覚を持ちます。彼らには個人的な秘技として表現された世界観があって、それ故デッサンや版画に特化した表現活動が盛んなのではないかと思うところです。「クラーナハ展」には現代作家の作品も併せて展示されていましたが、自分は北ドイツで出会ったそれら芸術家の表現に、クラーナハの精神性が脈々と受け継がれているように思えてなりません。

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