北斎 傘寿の表現力
2016年 12月 8日 木曜日
東京両国にある「すみだ北斎美術館」は、葛飾北斎のあらゆるジャンルの作品を集めていて、北斎ファンならずとも一見の価値がある美術館です。建築は近未来的な装いがあり、またICT活用により楽しく北斎ワールドを堪能できるようになっています。北斎と言えば長寿を全うした画家として有名ですが、私が何より注目しているのは傘寿、つまり80代に描かれた作品の表現力の凄さです。寛永2年の春に90歳で世を去った北斎でしたが、「天我をして十年の命を長ふせしめば」さらに「天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得べし」と死ぬ間際に語ったそうです。あと寿命が10年あれば、いや5年あれば本当の画家になれるのに、という意味です。画工への道半ばという意識があればこそ、傘寿に描いた「南瓜花群虫図」(84歳制作)「朱描鍾馗図」(87歳制作)「柳に燕図」(88歳制作)に見られる卓抜した観察眼と和漢洋の技法を巧みに操った凄まじい表現力が表出しているのも納得できます。言うなれば、北斎の傘寿を晩年と呼ぶには、あまりにも強烈な作品群があって躊躇されるところです。私事になって恐縮ですが、私は60歳になって彫刻のことが少し分かってきたように思えています。20歳で彫刻の手ほどきを受けて40年が経ち、紆余曲折があっても東京銀座で個展開催も11回目を数えています。それでも本当に彫刻家と言えるのか自問自答するところですが、彫刻家になりきれていない自分を自覚する度、真の立体芸術を掴むのはまだまだ先のことと感じます。今が折り返し地点かなぁと何の衒いもなく思っています。北斎に倣うのは烏滸がましいのですが、あと30年自分に寿命が許されれば、きっと納得がいく彫刻ができると信じているのです。