「写生雑録帖」と「写生図巻」

根津美術館で開催されている「円山応挙展」に、応挙のエスキースと言うべき写生の原本が出品されています。応挙の完成度の高い写実的な絵画は、写生の原本に見られるような研鑽と修練によって到達した境地と言えます。私は完成した作品と併せて、その資料や下図となったメモを見るのが大好きで、そこには創作の秘密が隠されているからです。筆の運びや抑揚、色彩の濃淡、形態の把握、いずれをとっても真摯な学習姿勢が見られて、私自身も意欲を掻き立てられました。図録にこんな説明がありました。「『写生雑録帖』は、応挙が日頃携えて写生し、あるいはメモを取った、唯一残る原本と思われる。~略~実物写生を行うことにより、奥行、立体感、距離感、存在感等に現実味を付与しようとしたと考えられる。そこから生じる実在感のある応挙の絵が当時の人々に歓迎されたのである。」(木村重圭 著)今回の展覧会には「写生雑録帖」と「写生図巻」があって、余白を埋め尽くすスケッチの数々に、私は眼を凝らしてじっと見つめていました。「写生雑録帖」では、プロポーションの寸法をメモしたものや視点を変えて複数個描いたものがあって、対象を前に気軽ながら真剣に向き合う応挙の姿勢が見て取れました。「写生図巻」は部分を綿密に描いたものが多く、葉の捲れ方や枯れた状態や花と茎の関係を描いたもの等、観察の方法を示す手本になりそうな例が多くありました。カタチを徹底的に描写把握しているからこそ省略もありうる、ということを改めて感じました。

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