「ポルト・リガトの聖母」雑感
2016年 10月 20日 木曜日
先日訪れた国立新美術館で開催中の「ダリ展」において、ダリの宗教画とも言える巨大な「ポルト・リガトの聖母」の前で、私は暫し足を止めて見入ってしまいました。イタリア・ルネサンスの祭壇画を彷彿とさせる古典的手法で描かれた、現代のテーマを扱った絵画と言うべきでしょうか。聖母のモデルは、ダリの愛妻ガラだそうで、ガラはダリにとって聖母マリアそのものだったのかもしれません。核を用いた戦争によってダリは原子物理学を自作に取り入れ、さらに宗教画題や神秘主義に発展させていきました。科学と宗教の融合はルネサンス期にもありましたが、ダリが成し遂げようとした世界は、芸術史のスパイラルの中で、さらに深淵に臨むが如く危うく不穏な未来が予見されているように思えます。図録によれば「核実験、原子爆弾、広島と長崎の市街の原爆による壊滅的な被害は画家の創造に影響を与え、核爆発について知って以降、原子は彼の『好んでふける省察の主題』になったことを言明した。ダリは、この時期に描いた風景の多くが『爆発が発表されたときにわたしが経験した未曽有の恐怖』を表現していると語る。これらの作品の中では、当時ははるか遠くに暮らしていたにもかかわらず、故郷のカダケスやクレウス岬の硬くて鉱物的な風景に忠実であり続けた。~略~彼は1950年代に、原子核神秘主義を具体化した粒子の絵画を発展させた。彼はアメリカ滞在中にこの粒子の絵画について、新しい科学の発展という視野から宗教のテーマに取り組む試みであったと説明している。」とありました。制作場所が変われど、故郷スペインの荒涼たる風景を描きながら、来たる世界を予言するダリ・ワールド。情報が錯綜する現代の状況を鑑みて、ダリの主張した世界観をもう一度検証することも必要かなぁと思いました。