仏教遺跡ボロブドゥールの雑感

先日行ってきたインドネシアの世界遺産ボロブドゥールは、私の彫刻作品に何か示唆を与えてくれるような魅力に富む建造物でした。ボロブドゥールは大乗仏教の遺跡で、780年頃に建造が始まったようです。自然にあった丘に盛土をして、さらに石で積み上げているため内部空間がありません。幾層にもなった方形壇に仏像や釣鐘状のストゥーパが数多く配置されていました。ストゥーパとは釈迦の遺骨や遺物を収めた建造物ですが、石を透かし格子状に組み立てていて、その緻密な計算に驚きました。方形壇の縁は壁になっていて各層に回廊があり、レリーフが施されていました。きっと仏教をテーマにした物語が表されているのでしょうが、不思議な鳥獣も彫られていて、物語をひとつひとつ紐解けば面白いだろうなぁと思いつつ眺めていました。資料によれば、ボロブドゥールの構造は仏教の三界を表しているようです。下から基壇は人の住む欲界、その上が神と人が触れ合う色界、上部が神のいる無色界だそうで、ボロブドゥールを上へ登っていくことで悟りを目指す菩薩の修行を表現していると言われています。夜明け前に暗い階段を登り、ボロブドゥールの上壇で見た山々を照らす太陽の神々しい光は、確かに神の存在を示すかのような雰囲気を感じさせてくれました。今までで3回訪れたアジアの世界遺産は、いずれも宗教建造物でした。アンコール遺跡群はヒンドゥー教、アユタヤ遺跡は上座部仏教、ボロブドゥール遺跡は大乗仏教で、自分に馴染みのあるのは大乗仏教かなぁと思っています。仏教は分派されて戒律尊守の上座部仏教と新興宗教だった大乗仏教の勢力が強くなり、我が国には大乗仏教が渡来してきました。見慣れたカタチがボロブドゥールに多くあったのは、こんな理由かもしれません。とにかくボロブドゥール遺跡は巨大な形態も細部にあるレリーフも気に入りました。朝霧が立ち込め、周囲が明るくなっても、そこにずっと居続けたいと思っていました。旅程もあるので、午前中には引き上げましたが、現在イスラム教徒の多いインドネシアで、よくぞ保存してきたと思うと同時に、現地の小学生の一団が学習に訪れているのを見て、遺産を後世に伝えていくのは宗教を問わず、人類の共通の役目なんだと改めて思いました。

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