「人間モーセと一神教」終結部Aまとめ

「人間モーセと一神教」(フロイト著 吉田正己訳 日本教文社)はひとつの論文ではなく、最初「イマーゴー」誌に発表され、その後になって終結部がつけられています。論文の主旨は一貫していますが、フロイトの専門分野である精神分析学によって歴史的事実を掘り起こすことが、終結部ではさらに先鋭化しているようにも思えます。2つのまえがきに続く「A歴史的前提」では一神教の成立に関する考察が述べられています。引用すると「若いアメンホーテプ四世の登場によって、この神の理念の発展以外に興味をもたないファラオが支配の座につくことになる。彼は『アートン信仰』を国家宗教にまで高め、彼によって宇宙神が唯一の神となった。ほかの神々について語られていることは、すべてうそいつわりだとされた。彼は魔術的思考のあらゆる誘惑に断固として仮借なく抵抗し、死後の生命という、とくにエジプト人にとって貴重な幻想をしりぞける。」とあります。その後に「アートン信仰」は崩壊の一途を辿ります。「彼におさえつけられた神官階級の復讐は、いまや彼への思い出に対して暴威をふるい、『アートン信仰』はしめだされて、罪人の烙印をおされたファラオの宮殿は破壊と掠奪にゆだねられた。」一旦壊滅的だった一神教が再びモーセによって興され、エジプトからの脱出劇があることをフロイトは仮説で述べています。「この異民族を自分の民に選び、自分の理想を彼らによって実現しようと試みた。彼は随伴者に伴われてともにエジプトを去ったあとで、割礼のしるしを授けて彼らを神聖なものにし、彼らに立法を与え、ちょうどエジプト人が廃止したばかりの『アートン信仰』の教義のなかに彼らをひき入れた。このモーセという人物が、ユダヤ人たちに授けた掟は、彼の王にして教師だったイクナートンのそれよりもおそらくもっと峻厳だったであろう。」

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