「人間モーセと一神教」読み始める

「宗教論ー人間モーセと一神教」(フロイト著 吉田正己訳 日本教文社)を読み始めました。これはフロイトの生涯最期の論文のため、偉大な精神分析学者の遺書とも言えます。それにしてもフロイトは何という論文を書いたものでしょうか。フロイトはユダヤ人です。自ら出生の源泉を辿り、その宗教を問いただすとは自分には考えられない発想です。多神教の日本に育った自分には、日本でも影響を持つキリスト教にさえ馴染めず、20代の頃の滞欧時代は、西欧人の精神的風土についていけないと感じていました。当時、自分の周囲にいた美大生には敬虔な信者が少なかったので、気楽な付き合いが出来ましたが、下宿先の老夫婦の宗教感には辟易していました。西欧人にとって、神は理路整然とした哲学をもっていて、人間本能と対峙するような構図が見られます。しかも自己存在や心の情緒に至るまで神のコトバが浸透している社会において、自分は西欧全体は疎かユダヤ民族に関する知識さえ足りないと感じつつ、本書を読み始めています。これを契機にしてユダヤ民族を筆頭にした異文化理解を深めたいと考えています。かつて読破したシュペングラーの「西欧の没落」やショーペンハウワーの「意思と表象としての世界」、ニーチェの「ツァラトストラかく語りき」、ハイデガーの「存在と時間」等々、西欧文明や文化に関する書籍を思い出すと、自分のイメージとして西欧の精神世界を捉えることが可能です。20代の頃の5年間の滞欧生活も経験値としても何らか役に立ちそうですが、やはりこれは日本人の私にとって難しい問題であることに変わりはありません。今回の通勤の友は、自らの由来を求める旅に出た科学者の、魂の在り処を掘り下げる衝撃を含んだ外来の友と言えそうです。

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