若冲の「動植綵絵 池辺群虫図」

先日、東京上野の東京都美術館で開催されている「若冲展」を見てきました。伊藤若冲は江戸時代に京都で活躍した画家でした。細密な描写で異彩を放つ若冲ですが、最近になって再び注目を集め出しました。若冲生誕300年にあたる今年は、展覧会入場者数がどのくらいなのか気になるところです。私も入場規制がかかる中、もみくちゃになりながら若冲の絵画に触れてきました。圧巻は何と言っても「動植綵絵」のシリーズで、全30幅は一見に値します。その中に若冲が得意とした群鶏図や小禽図もありましたが、敢えて私は「池辺群虫図」に注目しました。蛙や昆虫等が池辺に集まり、そこに植物の葉や蔓が這っている情景を丹念に描いたもので、葉には虫食いの穴があり、葉を食している小さな虫も見受けられます。捕食される虫も捕食する虫もいて、自然の摂理が表現されているのではないかと思うところです。オタマジャクシや蛙の群集もいて、蛙の中には一匹だけ反対を向いて全体を俯瞰する姿が描かれていて、これが何を意味するのか、楽しい洞察を試みるのも一興かなぁと思います。遠近法を無視した自由な構成にも不思議な新鮮味を感じました。落款に「丹青活手妙通神」が捺印されていることで、この「池辺群虫図」を若冲が重要と考えていた節が認められます。「丹青活手妙通神」とは若冲が深く親交して敬愛していた僧の月海元昭こと売茶翁高遊外が、若冲に贈った賛辞を印にしたものです。通常の落款「若冲居士」の他に、これが捺印されるのは珍しいことで現状の作品では僅か数点しかないようです。そんなことも含めて若冲作品を鑑賞するのも楽しいのではないかと思っています。

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