「発掘~環景~」大地の窪みを表現

夢は幼児体験からくる欲望充足であるというのが精神分析学者フロイトによる夢の解釈です。覚醒時にも同じような現象に囚われるのが神経症であるならば、造形イメージの源泉もそこからやってくるのではないかと自分は思っているところがあります。幼い頃、自分が育った横浜には戦後の傷跡が多く残っていました。そのひとつが防空壕です。子どもたちは防空壕を棲家にして遊んでいました。関東ローム層の赤壁にぽっかり開いた穴。その暗い陰湿な空間が、時折自分の夢に出てくるのは幼い頃の体験によるものだというフロイトの論拠に従うところですが、20代の頃に旅したエーゲ海沿岸の遺跡にも、大地に擂り鉢状の穴を開けている円形劇場があり、その陽射しの中の明るく乾いた空間も、自分の夢に登場してきます。後者は寧ろ、昼間の活動時にもぼんやり現れてきて、現在作っている彫刻作品に次なるイメージを齎せてくれます。私がイメージする大地の窪みは、例え小さな防空壕だろうが、巨大な円形劇場だろうが、いずれも人が作ったもので自然の成せる業ではありません。つまり、昔の人が作った構築物が自分の作品の下地になっていると考えていて、大自然の中に人間が生きた証として存在を示しているものの自分流の解釈と言えるのかもしれません。今回、大地の窪みを表現することにした新作で、時間を要したのは題名でした。「環景」は造語です。自分にとって作品の題名とは、その作品のカタチを簡潔に言い表すものではなくてはならないと考えているため、イメージの源泉を何度も辿ることになったのです。心的要因案としては記憶起因による欲望充足、具体案としては円形劇場でしたが、どちらもあまりに直接的でしっくりいかず、「環景」という造語に落ち着いた次第です。「発掘~環景~」は今までになく平たい造形です。鑑賞者は上から見渡すことになります。私には新しい視点で作る彫刻作品と言えそうです。

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