「人類の精神分析」まとめ

「フロイト入門」(中山元著 筑摩選書)第七章「人類の精神分析」のまとめを行います。これが最終章になります。「(フロイトは)個人の精神分析だけでなく、人類の精神分析の可能性を信じていた。それにはユングの影響もあっただろうが、フロイトの思想的な枠組みにおいて、すでにこうした取り組みを促すいくつもの要因が存在していたからでもある。」「民話や童話を手掛かりに個人の精神を分析しようとするユングに対抗して、フロイトは個人の精神分析を手掛かりにして、文化人類学の未解決の問題を解決しようとするのである。」この引用から分かる通りフロイトの考察は、もはや個人を超えて人類全体に対する精神分析を行うようになっていったようです。次の引用は人類の原初の段階に於けるタブーの問題に触れています。「強迫神経症の禁止の考察から、フロイトは原始的な民族のタブーも同じような強い欲望の働きと、その禁止というメカニズムによって発生したと考えた。~略~集団の象徴である特定の動物を殺すことと、トーテム集団の内部で婚姻を行うことである。」さらに次の引用は、宗教や軍隊といった集団が、秩序維持のためにやってきたことを、集団心理学として捉えています。「一つはイエス・キリストや軍の司令官のように、集団の頂点にカリスマ的な人物が存在し、率いていることである。『集団のすべての個人をひとしく愛する首長がいるというまやかし(錯覚)が通用している』のである。~略~こうした指導者に服従することで、集団の成員のうちには平等な関係と仲間への愛情が成立することである。」「フロイトは晩年に『幻想の未来』という書物で、西洋の資本主義社会がいかに人々の欲動の充足を妨げているか、そしてそれがどのようにして人々を戦争へと導くきっかけとなっているかを指摘している。~略~この『幻想の未来』という書物では、宗教が秩序を維持するために果たしてきた重要な役割を認めながらも、それは神経症が抑圧に役立っているのと同じであり、こうした疾患は治療する必要があることを訴えていた。」ここまでで文中の引用を控えますが、晩年のフロイトは宗教批判も厭わない論文を発表して、世間の酷評に晒されました。フロイトが精神分析の立場から人類史を総括したことに、私は興味が尽きません。「幻想の未来」それに続く「人間モーゼと一神教」という論文が読みたくなりました。近いうちに書店で探してみようと思います。これをもって「フロイト入門」のまとめとさせていただきますが、フロイトが提唱したものをさらに追求したい欲求に駆られます。それは稿を改めますが、そろそろ中断している「夢解釈」に戻ろうかとも思っているところです。

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