超絶技巧の「宮川香山」展

先日、東京六本木に移転したサントリー美術館に行ってきました。東京ミッドタウンの5階にあって、大変気持ちのいい展示スペースになっていました。陶芸家宮川香山は、明治時代に活躍した人で、超絶技巧の「高浮彫」で知られています。その技巧が見たくて展覧会に行ったのでした。最初の部屋に「褐秞高浮彫蟹花瓶」がありました。器に蟹が貼り付いていて、その造形や質感は本物と見紛うほどでした。ポスターになっている「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」もあって、猫のポーズが印象的でした。鳥、蛙、花や枝、どれを見ても驚くばかりの超絶技巧を舐め回すように見ました。ひとつずつ丁寧に作品を目で追っていた私は、ひどく疲れてソファに蹲ってしまいました。宮川香山は図録によると、京都の真葛ヶ原(東区円山公園)の陶工の家に生まれたそうです。家督を継いでから京都を離れ、橫浜にやってきます。明治政府は外貨獲得のため陶磁器の輸出を奨励し、香山も海外を視野に入れた陶磁器を制作していきます。超絶技巧の高浮彫はそうした中で生まれました。もともと橫浜には陶土の産地はなく、工房を構えるにあたって相当苦労したようですが、常軌を逸した高度な造形が生まれるまでに紆余曲折があったのだろうと察しています。田邊哲人氏というコレクターがいたおかげで、初代宮川香山から二代目以降の貴重な作品群を見ることができます。同じ陶を扱う端くれの私としては、作品が全て焼成されたものだという陶芸には至極当たり前なことが、まず驚きでした。陶土または磁器土の性質を熟知していないと超絶技巧は不可能で、しかも写実の色彩を求めて釉薬の研究も必要です。陶磁器にかけた生涯、その追求にかけた情熱がヒシヒシと伝わってくる鬼気迫る展覧会でした。

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