見えない彫刻

彫刻は主題を塊として表現する媒体で、その骨組みによって構築性のある作品が生まれます。空間の中に置かれた塊としての彫刻作品に対し、人は周囲を回ってその触覚的な凹凸を鑑賞するのです。美術館や画廊といった特殊な空間に置かれた特殊な物体が、即ち彫刻というわけです。私たちが日常見ている風景には、そんな特殊性はありません。全ての形態は一角しか見えておらず、たとえば都市に建つ高層ビルの背後はきっと同じような面の連続に違いないと想像をしています。森や草原に立つ木々も地中に張った根は見えていません。初対面の人には秘めたる内面は見えないので、風貌で判断してしまうことがあります。人間関係が生まれて、やっとその人の本来の姿が見えてくるものです。私たちは表層の中で生きているといっても過言ではありません。ならば彫刻も塊としてではなく、その一角が現れているだけの作品があっても不思議ではありません。自分が注目したのは古代都市の発掘現場です。大地に埋もれている都市構造は、想像を呼び、私たちを刺激します。私が「発掘」シリーズを始めた契機は、一部しか現れていない古代都市に彫刻的面白さを感じたからに他なりません。全体が見えない彫刻、埋没した部分に謎を秘めた造形、そこに想像も含めた無限の広がりを求めているのです。

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