「絶望名人カフカの人生論」読後感

「絶望名人カフカの人生論」(カフカ著 頭木弘樹訳 新潮社)を読み終えました。実はもっと早く読めたのですが、読んでいくうちに、休憩を挟みながらの超遅読に切り替えました。何故なら本書は面白すぎて速読では勿体ないと感じたからです。翻訳と解説をしている頭木弘樹氏の何気ない言葉が巧妙でいいのです。「これってあるなぁ」とつい頷いてしまうネガティヴな場面が共感を呼び、自分もカフカのようなネガティヴな性格を兼ね備えていることに気づきました。でも、カフカほど絶望していないので、自分は芸術をやる者として凡人かなぁと思ってしまいます。実際、カフカのようなアンテナを持って生きたなら苦しくて寂しくてどうしようもないと思うのです。しかもカフカが偉大な文学者になったの結果論であって、その保障は生前どこにもなかったのです。本書の説得力はあとがきにある作家山田太一氏の言葉が物語っています。「この世の成功者が語るポジティヴな幸福論など、大半は底の浅い自惚れか、単なる嘘か錯覚だったりすることが多く、それに比べて不幸の世界の、なんと残酷で広大で奥深く切なくて悲しくて美しくて味わい深いことだろうという感受性には共感してしまいます。」う~ん、やっぱりそうだなぁと共感ばかりになってしまうのですが、これからもっとカフカを読んでいこうと意欲に駆られたことは確かです。翻訳者の頭木氏が中学生の時に出会ったカフカの「変身」。実は自分も同じで、中学生の頃、読書感想文のために薄っぺらな文庫本を、薄っぺらにも関わらず四苦八苦して読んだ記憶があります。きっと頭木氏も同じだったに違いないと思いつつ、初めて不条理文学を知った頃の何とも言えない居心地の悪さに、途中で投げ出したくなる気持を押さえてやっと読破したけれど、達成感はまるでなく、こんなものは二度と読まないと決めたあの頃を思い出します。カフカの偉大さに気づくまでに、そこから数十年かかっている自分が、この歳で辿り着いた「絶望名人カフカの人生論」でした。今後は中途で休んでいたフロイト著「夢解釈」の続きを読んでいこうと思いますが、今となってはカフカの人間的魅力に触れてしまったので、きっとフロイトの後はカフカに走るかもしれないと思っているところです。

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