渋谷の「風景画の誕生」展

先日、東京渋谷にあるBunkamuraザ・ミュージアムで開催している「風景画の誕生」展に行ってきました。所蔵がウィーン美術史美術館で、20代の頃ウィーンに暮らしていた自分には馴染みのあった美術館ですが、今回来日していた絵画作品はまるで覚えがなく、莫大な所蔵品を誇る美術館とは言え、自分の記憶の危うさに対し自己嫌悪に陥りました。絵画作品は地味ながら胸を打つものが多く、神話や聖書をテーマにした中世の絵画からオランダ風景画に至るまでの緻密な表現に、新鮮な驚きを与えてくれました。風景画の発祥はいつだったのか、歴史の変遷を含めた内容を知りたくなり、図録を購入しました。「近代の発祥としてイタリア・ルネサンス美術においては、特にフィレンツェにおける、人間中心の人文主義思想と科学的遠近法との興隆がむしろ、風景画の展開を妨げたと捉えることもできるかも知れない。風景画誕生の基本的条件として提起した、人物像と自然像との等価的表現は、近代に先立って、メソポタミアにおいても、エジプトにおいても、エーゲ海においても、ローマにおいても、中世においても、多くを認めることができる。~略~あらゆる現実的存在物が光の照射を受けて視覚化されるという認識は、近代に始まったものではないが、光はひとつの光源に発して存在物を照らすという認識は、ルネサンスの透視画法と密接に結びついた科学的な認識であった。」(木島俊介著)という一文が示すように、風景画としての表現は遙か古代から見られた表現であったわけですが、人間中心の文芸復興を経て、現在のような風景画の確立となったのはルネサンス期あたりなのかもしれません。今回の展示作品の中で個人的に印象に残ったのは、牧歌を主題にした風景画で、楽園のような緑地に廃墟となった古城がある作品群で、特別何ということはないけれど、見ていると心が癒やされ、和やかな気分になりました。主題がはっきりしている人物中心の絵画がもつ従属的な風景とは異なり、全体的な光の移ろいに風景画としての醍醐味を感じた作品群でした。

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