汐留の「アール・ヌーヴォーのガラス」展

東京では既に終わってしまった展覧会ですが、「アール・ヌーヴォーのガラス」展はなかなか見応えのある印象的な展覧会だったので、感想を述べたいと思います。パナソニック汐留ミュージアムは興味深い企画展が多く、企業が経営する美術館の中で私はよく出かける美術館のひとつです。今回の企画は独デュッセルドルフ美術館所蔵の個人コレクションが中心になっていました。コレクションをされた人はゲルダ・ケプフという実業家夫人で、収集品を見ると確かな審美眼をもっていて、その素晴らしさが私にも伝わってきました。その中で目を引くのは、やはりエミール・ガレとドーム兄弟の作品群です。両者の制作に対するアプローチが異なるので、比較対象にはなりませんが、最終的には芸術性の高い優れたガラスを創り出したことでは、兄たり難く弟たり難しになっていると感じました。その源泉とも言うべき作品で印象的だったのはウジェーヌ・ルソーの「台付蓋付花器」で、そこからガレに受け継がれて、まさにアール・ヌーヴォーのガラスは開花期を迎えたように思えます。ルソーは当時流行ったジャポニスムの影響が随所に見られ、日本の浮世絵からのイメージがガラス面に溶着していました。動植物が大胆にシンボライズされて応用されていますが、日本人からすれば、文様のもつ意味が剥奪されて、単なる装飾になっている感も否めません。いずれにせよ豊かなデザインと卓抜した技法が、ひとつの時代を築いたことに変わりはなく、その精緻な優美さに目を奪われました。

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