週末 声楽家の叔父との対話

家内の叔父下野昇は声楽家です。私たちが結婚して間もない頃、叔父は二期会オペラのテノール歌手として華々しい活躍をしていて、私が志す美術とは違う世界を見せてくれていました。当時は指揮者小澤征爾との共演も複数回ありました。私も誘われるまま東京文化会館のリサイタルに行き、ドイツやイタリア歌曲に酔いしれました。私が彫刻家としての力量をつけていくにつれ、叔父夫妻との仲も濃密になり、芸術の話が出来る唯一の親戚として、私には大切な存在になりました。最近は夜遅くまで語る機会も減っていましたが、久しぶりに叔父宅に私たち夫婦が呼ばれて、大いに語る時間を持つことが出来ました。週末ともなれば自分は新作の制作があって、朝早くから工房に篭らなければ時間を空けることが出来ません。今日は叔父宅に行く時間を作るため、成形加飾1点とタタラ4枚を午後2時までに作り上げました。家内は午前中から叔父宅に出かけていました。夕方、私が到着すると夕食のレストランを予約して頂いていました。来年80歳を迎える叔父はラストリサイタルを東京文化会館でやりたい意向があります。競争率の高い施設でのリサイタルを諦めていた矢先、二期会の事務から連絡があって、何とか叔父が希望する日で来春の東京文化会館を押さえてくれたらしく、これも叔父のキャリアの成せる業かなぁと思いました。大学の同期は亡くなった人も多いと叔父は嘆いていましたが、この年齢でリサイタルが出来るのは、叔父は選ばれた人ではないかと私は主張し、叔父の背中を押しました。自分も叔父の年齢まで展覧会をやれたらいいなぁと願っています。レストランでの話は夫婦の話にも及び、叔母は昔から手作りの食事で叔父の健康を気遣ってきました。その分叔父はリサイタル予約のこと等なかなか叔母に言い出せなかったようです。叔父を徹底して管理する叔母に心配をかけたくないと思ってのことでしょう。家内も叔母から学ぶべきことがあったようですが、家事に情熱を燃やす叔母と違い、家内は胡弓奏者として巡業を行っているため、家事に時間を避けない事情があります。私は家内の表現活動を認めていて、家事で自分を気遣わなくても良いと思っています。夫が重責を担う管理職としてやっていて果たしてそれでいいのかと叔父夫妻に心配されましたが、私たち夫婦の在り方は少し違っていて、私が突如美術館に行きたい、海外に行きたいと言い出すと、家内は可能な予定ならそこを空けて付き合ってくれるのです。しかも鑑賞の感想も忌憚なく言います。私の創作活動に対しても同じです。家内は私にとって一番近い冷静な評論家です。そんな関係があるからこそ私たちはやっていけるのだと叔父夫妻に言いました。ともかくこんな話が出来る親戚がいることが幸せと私は感じています。叔父には長く表現活動を続けて欲しいと願うばかりです。

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