映画「ターナー、光に愛を求めて」

先日、橫浜のミニシアターに出かけて表題の映画を観てきました。イギリスの巨匠ターナーの光に溢れた絵画群を、以前に東京都美術館で見て感銘を受けたところなので、この映画全編に亘る映像美には驚きを隠せませんでした。戦艦テメレール号の解体される最後の雄姿を、舟に乗ったターナーが見ていた設定にして、ターナーの描いた世界そのままを映像に仕上げる技術に圧倒されました。まさに眼前で動いている絵画世界がありました。ターナーの主題とする光と潤いに満ちた丘や湖が現れる映像は、今もイギリスに残る風景でしょうか。ターナーの色調に迫る映像処理が行われていて、溜息が出るほどです。ターナーの人間性は監督の解釈によるところが大きいかもしれませんが、史実を基にターナーを中心とする周辺人物を色濃く描いています。その演出も事実と見紛うほどになっていて、ドラマとしての説得力を大いに楽しみました。ターナーには若い頃に描いた有名な自画像があって、それは己を美化して描いていますが、映画で主演をしていたT・スポールは中年の醜さの漂うターナーを演じています。どっちが本当のターナーに近いのか、想像してみるのも一興かもしれません。ロイヤル・アカデミーに展示してある数多くの作品に、その場で画家たちが自ら手を入れているシーンに自分は個人的な関心を持ちました。その場でターナーと同世代のライバルであるコンスタブルとの絵画表現上の鞘当てがあったり、嫌みたっぷりな批評があったりして、これがドラマとは言え、自分はこのやり取りに少々疲れました。ターナーの生涯、絵画から抜け出してきたような映像美、創作する者としては羨ましくもある映画だと思いました。

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