個展に関する複雑な心境

10年前に東京銀座のギャラリーせいほうの田中さんに認められて、人生初の個展を開催しました。その時は有頂天になって、彫刻家としての大きな一歩を踏み出しました。このチャンスを手放すまいと毎年奮闘し、この10年間に10回目の個展が出来ました。その間、創作活動に邁進するだけの健康を保ち続けられたのが幸運と言えます。今後も継続したい思いで一杯です。そんな気持ちと裏腹に個展に関する複雑な心境もあります。個展を企画していただいている幸せがあってこその心境ですが、最初の個展からずっと思っているものです。自分自身、展示している作品に満足を覚えるのは、搬入が終わり、作品を組み立て、照明を設定して、いよいよ会場が出来上がった瞬間だけなのです。残りの日程は次第に息苦しさが出てきます。非日常空間の中で自分の作品と自分が対峙しているのが辛いと感じます。ギャラリーせいほうの広く白い空間は、何とも清々しい爽やかな場所で、入口のガラスを開けると、人はやや緊張した面持ちになります。鑑賞に訪れた人々には、なかなか理解できないかもしれませんが、そんな特別な空間で内面を吐露している自分の作品は、自分にとっては複雑で厳しい存在なのです。工房で見る作品とギャラリーせいほうで見る作品は、同じモノなのに違って見えます。作品にとってはギャラリーは演出された晴れ舞台で、作者は作品が万人の眼に曝されるのを見届ける裏方と言えます。その裏方が見つめる作品の晴れ舞台に、力量の及ばぬ箇所を見て、複雑な心境を抱いても決して不思議はないでしょう。個展に関する複雑な思いに駆られることは今後もありますが、それでも個展をやっていきたい意志は変わるものではありません。

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