旅立ちに向けて

最近工房によく出入りしている若いアーティストが2人います。時にはスタッフとして私の作品を手伝ってくれますが、通常は創作活動をやっています。一人は中国籍の子で都内の美大に副手として勤務しています。もう一人は大学院先端芸術表現科に籍を置く学生で、染織を媒体にした作品を作っています。今日の話題はその学生に纏わる留学のことです。彼女は板染めという伝統技法を現代表現にアレンジした作品を作り続けていますが、半年間のインドネシア留学が決まり、日本から今日旅立ちます。当面ジョグジャカルタにある宿舎付きの工房に身を寄せる予定だそうですが、バリ島を初め各地を回って染織について学ぶ計画があるようです。彼女の留学が実り多い成果を生むことを願ってやみません。留学はネットの普及から現在では特別なことではなくなりました。語学を海外で学びたい学生は大勢います。留学が単なる旅行気分の延長で終わるのか、それとも深く文化や民族に触れ、やがて国際社会の中で生きていく糧となるのかは本人次第です。私も1980年から85年までヨーロッパにいました。自分のことを鑑みると留学が実効に結びつかなかった点を言えば成功とは言えません。空虚な時間が流れていっただけという印象が拭えません。それでも記憶の蓄積が現在の創作活動に結びついていると考えれば、無駄ではなかったと思えるのです。彼女の旅立ちに向けてエールを送ると共に、留学経験が今後の豊かな人生観を培ってくれるなら、絶好の期間に恵まれたと言っても過言ではありません。

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