木と森の関係に思うこと

受験デッサンを始めた高校生の頃、自分にデッサンの指導をしてくださった画家の先生から「木を見て森を見ず、森を見て木を見ず」と言われたコトバが気になって、それがデッサンの極意とも取れて自分の脳裏に焼き付いてしまいました。部分に拘るばかりに全体の調和が取れず、また全体ばかりを追いかけていると、部分が疎かになるというもので、今でもその極意は生きていると思っています。絵画表現は全体と部分の関係を見るのが容易で、一筆ごとに画面から離れて、全体を見回すことが出来ます。鑑賞者はまず全体を見て、その印象に感銘を受け、そして部分に眼を凝らして、その卓越した表現を味わうものだろうと自分は考えています。全体が緊張感をもって統一されている作品は秀作です。私が試みている集合彫刻は、部分を作って集合させていくもので、発想段階での全体感はあっても、実際の作業で全体が見えてくることがありません。最終的な制作工程になって漸く「森」が現れるのです。どんな「森」が組み立てられていくのか、自分の当初のイメージに近づいているのか、自分の計算と予想とが入り交じって毎回複雑な思いの全体構造になっていくのです。今夏発表する作品の「森」はまだ見えていません。毎年不安に駆られながら、豊かな「森」を目指して弛まず制作を続けています。

関連する投稿

  • 「文化的総合」について 「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中の「第6章 タヒチからマルケーサスへ(1895~1903年)」の「2 […]
  • 週末 「構築~視座~」の彩色 今年の7月個展には2点の大きな作品を出品する予定です。目玉は複数の陶彫部品で構成する「発掘~盤景~」ですが、もうひとつは木彫のみで作った「構築~視座~」です。この作品はテーブル彫刻で、楕円状の卓を4 […]
  • 週末 3点目の陶彫成形 日曜日は毎回美大受験生が2人工房へやってきます。彼女たちのうちの一人は予備校の夜間コースに通っていて、そこで出された課題を工房に持ち込んでくるのです。昼間は高校に通い、夜は予備校、そして週末は工房に […]
  • 5連休と言えども… 5月になりました。ゴールデンウィークの最中で、今日から5連休になります。まず今月の制作目標ですが、7月個展に出品する新作全てを今月末に完成しなければなりません。5月30日(日)が新しい図録用の撮影日 […]
  • 週末 BankARTの「山本愛子展」 週末になりました。昨日から取り掛かっているテーブル彫刻制作を継続しています。今日の午前中はテーブル部分の文様の刳り貫き作業を開始しました。昨日描いた下書きをさらに煮詰めて、刳り貫く部分と残す部分を決 […]

Comments are closed.