亡命作家による「悪童日記」

先日、橫浜にあるミニシアターに家内と行ってきました。上映されていたのは、ハンガリーの亡命作家アゴタ・クリストフによる「悪童日記」で、以前から観たいと思っていた映画でした。アゴタ・クリストフはハンガリー動乱の時に亡命し、スイスを経てフランスに渡りました。敵国であったフランスに身を寄せて、フランス語による小説を書き始め、この「悪童日記」によって一躍有名になったようです。「僕らは書き記す。この眼に映る、真実だけを。」というキャッチフレーズが物語るように、双子の少年たちが戦争中の壮絶な日常を書き綴った日記が物語の中心になっています。双子の兄弟はハンガリーの片田舎で暮らす祖母宅に預けられます。そこでは過酷な労働が待っていますが、双子は逞しく生きるため自分たちを鍛え上げていきます。盗人や殺人さえも真実と思えば実行する、そこに中途半端な情念はありません。双子がまだ年端もいかない子どもと思えるのは、優しくしてくれれば友人と思う近視眼的な周囲によって描かれています。一方大人たちは社会的な視野で、時に裏切る行為もあるわけですが、双子には通用しない理屈もあって、それは両親と言えども同じ尺度で考えているのです。親の屍を平然と乗り越えていく彼らの強さは一体何でしょうか。そうした意味で双子は純粋とも思える生き様を晒していくのです。亡命作家であるアゴタ・クリストフはここで何を言いたかったのか、戦争に翻弄された人々から見て取る人生観とは何か、見終わった後、静かな感動が込み上げてきたのは自分だけではないと思います。

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