千葉の「赤瀬川原平の芸術原論展」

回顧展のはずが遺作展になった「赤瀬川原平の芸術原論展」ですが、展覧会の主旨がどうであれ自分は千葉市立美術館まで見に行く予定を立てていました。テレビで見た赤瀬川原平氏は飄々として屈託がなく自然体で物事を分かり易く語っていました。文章にも不思議な平易さや滑稽さがあって読んでいる心地よさを感じました。「老人力」は通勤電車の中で思わず吹き出しそうになり、巧みなユーモアに感動しました。芥川賞受賞作の「父が消えた」は昨日から読み始めました。さて、「赤瀬川原平の芸術原論展」はそんな一人の芸術家の多様な表現媒体に捧げた人生を回顧する展示があって、これはもうじっくり見ていたら全て見きれないのではないかと思えるほど質量ともに圧巻な展覧会でした。自分の知らない初期の前衛的芸術活動では、同時期に試みていた芸術家集団がその後、様々な活動拠点のもとに創造的な展開をしています。現在も活躍している諸氏をメディア等で見ているだけに感慨深いものがありました。反芸術という旗印は、自分が美術の道に目覚めた頃に叫ばれていたもので、知識としてしか入っていない自分は遅きに失した感が残ります。20年以上も遅く生まれた自分は次世代の綺麗ごとの文化に埋没しているように思えます。千円札裁判も同様でリアルタイムでは知りません。赤瀬川氏の劇画の時代になると漸く自分は雑誌「ガロ」で泥臭い写実さとともに氏の活動を認識するようになります。ずっと後になってテレビ出演した赤瀬川氏のゆったりした語りを聞くまでは、自分は氏を怖く鋭く尖った人と思っていました。あるいは若い頃はそうだったのかもしれませんが、世相が暗く立ちこめる風刺の効いた社会的表現と、ご本人のゆるキャラが結びつかないと思っていたのです。氏は巨匠らしくなく、敢えて言えば多匠か凄匠かなぁと考えつつ展覧会を後にしました。

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