「詩的思考のめざめ」読後感

「詩的思考のめざめ」(阿部公彦著 東京大学出版会)を読み終えました。これは自分にとってこの上なく楽しい書籍でした。これを読んだからといって自分のコトバが流暢に出てくるものではありませんが、自分にとって詩とは何かというモヤモヤした問いに、本書は分かり易く、胸にストンと落ちるような答えを用意してくれていました。最後にある文を引用します。「何より強調したかったのは、私たちの日常が、私たちのふつう考えている以上に詩的なものとつながっているということでした。遠いありがたい『詩』の世界に一生懸命入っていかなくても、ふだんの日常の中に詩のタネは隠されている。~略~それはもはや入門ではなく、詩との遭遇です。門を叩かなくてもいい。詩は門の外にあるのです。~略~とくに詩を読み始めてすぐの頃は、詩にあらわれた匂いのようなものがすごく気になる。作品と書き手との相性もはっきり出る。中には問答無用におもしろいと思える詩もあるでしょうが、周囲の人がおもしろがって読むわりに自分にはどうしても楽しめない、いや、気分が悪くなるものだってある。」なるほど、詩はそんなに身近であったか、確かにそうかもしれないという思いに辿り着きました。でも自分が自らのコトバを捻り出すのはやはり難しいと思わざるを得ません。造形美術と同じで、詩も簡単に生まれるものではなく四苦八苦しながら創作していく行為と改めて知った次第です。

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