竹橋の「菱田春草」展

36歳の若さで夭折した日本画家菱田春草が生誕140年を迎え、竹橋にある東京国立近代美術館で「菱田春草」展が開催されているので、展覧会初日に見に行ってきました。菱田春草は黒猫の絵で知られた画家ですが、自分は「落葉」を描いた空気遠近法による屏風が好きで、これをじっくり見たいと思って出かけたのでした。図録執筆を担当された鶴見香織氏によると「『色彩研究』に替わる新たな課題として『距離』を掲げ、自宅周辺に広がる雑木林をモチーフにこれを追求し始めた。『距離』とはすなわち三次元的な空間表現である。」とあって、横山大観らと始めた朦朧体による筆致から推し進めて、空間や距離を表現していこうとする春草の世界観が伝わってきます。「春草は『不熟』の天才であった。それゆえに『智的の焦慮』をもち、徹底して改革者であり続けようとしたこの時代に数少ない画家の一人であった。」とあるように春草は実験的な日本画に挑んだ人でした。岡倉天心の一文が掲載されていたので引用して締めくくりたいと思います。「畢竟彼の絵は此の意味に於て実験室に於ける試験なので、世間では唯無闇に変な絵を描くと思ったかも知れないが、其の動機を見れば根底のあることである。殊更に奇を好んだのでも何でもない、彼は仏画抔も写して大分古画の研究も積み近頃漸く自分の境涯に入った処だったのに惜しいことをした。境涯に入った丈けだから勿論未だ成熟はしていない。が今日成熟する人は心細い、大体の問題が未だ成熟してはならぬ様に出来て居るからである。」

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