「リアリティのダンス」現実と超現実の狭間

先日、勤務時間終了後にちょっと無理をして東京渋谷まで足を伸ばし、表題の映画を見てきました。監督は85歳のアレハンドロ・ホドロフスキー。世界中のアーティストを熱狂させる映画監督が23年ぶりに作った映画と聞いて、多少無理をしても観たかった映画なのでした。見終わった後の感想として、監督の自伝を通して主題では家族の再生や魂の癒やしを謳っていますが、寧ろ自分は現実と超現実の狭間にある映像の美しさや編集の巧みさに思わず吸い込まれてしまいました。それは決して審美ではなく監督が語る通り臨床的な映像になっていました。ロシア系ユダヤ人としてチリの港町で暮らしているアレハンドロ少年は、学校でいじめられ、父親からは虐待を伴う厳しい躾を受け、母親は母の父(アレハンドロからすれば祖父)に似た息子に祖父の幻影を抱いている一方、アレハンドロの理解者として描かれていて、さまざまな恐怖を母親によって癒やされています。父親は過激な共産主義者で、波瀾万丈の旅に出て、やがて改心して帰宅します。ホドロフスキー一家は、3人それぞれが主観的に過去を捉えて、やがて自分の輪郭を飛び越えて再生していくものだと映画が語っているように思えます。超現実映像が織り交ぜられているのに、現実感が印象に残るのは何故なのか、写実で描かれていても嘘臭い印象が残るのを考えると、現実と超現実の狭間にあって、訴えてくる主題がより強調されるのかもしれないと思う次第です。創作に関わる者として、自分に何かを投じてくれた映画でした。

関連する投稿

  • 創作一本になった4月を振り返る 今日は4月の最終日なので、今月の制作を振り返ってみたいと思います。今月の大きな出来事は、長年続いた教職公務員との二足の草鞋生活にピリオドを打って、創作活動一本になったことです。これは自分の生涯の転機 […]
  • 2020年の1月を振り返って… 1月はあっという間に過ぎた感じがします。昨年暮れから続いていた休庁期間(閉庁日)があったため、陶彫制作はかなり頑張れたように思っています。新作は屏風と床を繋ぐ陶彫部品を残すのみとなり、今月の週末は朝 […]
  • 例年とは異なる5月です 新型コロナウイルス感染拡大が、日常生活に影響を及ぼす状況がこのところずっと続いています。5月になっても通常の生活に戻れる気がしません。そんな中ですが、今月の創作活動について考えてみたいと思います。創 […]
  • 閉庁日(休庁期間)の始まり 今日から職場は閉庁日(休庁期間)に入ります。私の職場は1月5日まで閉庁するので、休庁期間は合計9日間になり、例年この時期、私は来年夏に発表する陶彫による集合彫刻の制作に没頭しています。これがなければ […]
  • 2019年HP&NOTE総括 2019年の大晦日を迎えました。まず今年の総括を行う前に、今月を振り返ってみたいと思います。新作の陶彫制作ですが、床に這う根の部分は19点が出来上がり、今は屏風に接合する陶彫部品を作っている最中です […]

Comments are closed.