「シュタイナーの思想と生涯」読後感

「シュタイナーの思想と生涯」(A.Pシェパード著 中村正明訳 青土社)を読み終えました。霊学や人智学は自分にとって未知の学問なので、オカルト系の胡散臭さを感じてしまっては、学問そのものに対して誤解を招く恐れがあると感じます。読み進めていくうちに正直言えば、こんなことってあるんだろうかと思いつつ、解説している著者の真摯な論考に助けられることもありました。シュタイナー自身の著作、ましてや講義録等を直接自分が読んだら益々懐疑を抱くだろうと予想出来ます。今のところ本書だけでシュタイナーに関する文献は充分と判断して一息入れることにします。シュタイナー自身の講演のコトバから引用します。「私がこれまで語ってきたことにしろこれから語ることにしろ、無批判に受け容れることのないようにして下さい。透視力をもたない人でも、透視によって得られた事柄を確かめることはできるのです。権威に頼る習慣をやめるようお願いします。この習慣は人間に害悪をもたらします。…霊学から得られたものを信じるのではなく証明してほしいと思います。それも、単に表面的にではなく、本気で証明してほしいのです。細心の方法をもつ最も新しい科学がもたらすものすべて受け容れてください。霊学を確かめれば確かめるほど、霊学の正しさが立証されるのです。権威ある人が言っているからと言って鵜呑みにしてはいけません。」さらに戦後から現代の政治的対立や人種問題、科学の途方もない破壊力等の状況を鑑みて、ベルジャーエフの著作にシュタイナーと酷似しているところがあります。「世界は、新しい霊性と新しい神秘主義に向かって、今暗闇の中を進んでいる。新しい神秘主義は物同様のこの世界を最終的な現実とは見ないだろう。…新しい神秘主義においては真の霊的知恵が開示されるだろう。…そして、人類にとって責め苦となっているすべての矛盾と分裂が新しい神秘主義によって解決されるだろう。新しい神秘主義は宗教よりも深遠であり、当然解決策を提示できるからである。それは一般社会で行われている偽りの神秘主義にたいする霊の領域の勝利であろう。…霊の領域が最終的な勝利を収めるには、人間の意識構造に変化が生じなければならない。新しい時代をもたらすのはほかでもない、終末論である。」シュタイナーの多義に亘る活動は現在でも見直しが進んでいると聞き及んでいます。またシュタイナーに触れる機会があれば再度考察してみたいと思います。

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