「0・ルドン展」眼の浮遊

新宿にある損保ジャパン東郷青児美術館で開催中の「オディロン・ルドン展」は、象徴主義の代表格とされる巨匠の多義に亘る絵画作品で構成されていました。ルドンと言えば自分は闇の中に浮かぶ奇怪な生命体を思い描きます。モノクロの画面から幻想が漂い、自己の内面を覗いた深遠な世界という印象を持っています。ルドンの代表的なモチーフに「夢」があります。「夢のなかで」と題されたリトグラフの連作は、生物学的興味と精神主義的意味の双方から眼という器官を重視していたルドンのヴィジョンがよく表れているように感じます。描かれた風貌の中で大きな眼のある生命体が浮遊している画面は、観る側によってさまざまな解釈が可能です。とりわけ眼は人間の器官の中で、内面を示す最も過敏な部分だと考えます。画面の中で、眼が中心に据わると他の部分の印象が薄まりますが、奇怪な生物に人間の眼がつくと愛嬌のある不思議なキャラクターに変わってしまいます。実際に眼が描かれていなくても、観る側に働きかけてくるのは画面全体がルドンの眼になっているのかもしれないと、数々の作品を見ながら自分は感じ取っていました。眼の浮遊、こんなコトバが思いついた展覧会でした。

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