芸術家である後ろめたさ

世界的に認められた芸術家は、作品によって生活経済が豊かになり、またアシスタントも雇えるのだろうと推察しています。彼らは若い頃苦境に立たされた時期があっても、やがてパトロンが現われ、美術館が作品を買い上げて、誰にも憚れず作品を作っていられる身分なのです。現在読んでいる「ジョセフ・コーネル 箱の中のユートピア」(デボラ・ソロモン著 林寿美・太田泰人・近藤学訳 白水社)の中に世界的に認められた芸術家としては考えられない一文があったので抜粋します。「地下室の仕事場が静まりかえることはほとんどなかった。一階上で母親が歩きまわり、鍋釜がガチャガチャと鳴り、彼の衣服を洗濯するあいだ水がシューッと水道管を通って流し台を満たすのが聞こえ、母が忙しく立ち働いているのに自分は無為徒食、芸術家としてどれだけ価値があるのか定かではないのだ、と思い出さずにはいられないのだった。」伝記からすれば些細な描写ですが、自分にはコーネルの妙に生々しい生活が見えて気に留まりました。芸術家である後ろめたさ。コーネルの伝記は自分の感情の機微に触れてきて、今後の読書が楽しみでなりません。

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