「現在の芸術と未来の芸術」について

「現在の芸術と未来の芸術」「構成派研究」(村山知義著 本の泉社)という2冊セットの書籍が自宅の書棚にあります。本書「現在の芸術と未来の芸術」は、今年の夏に見た「村山知義展」で購入したものではなく前から自宅にあったものです。いつ頃手に入れたものか忘れてしまいましたが、それほど昔ではないと記憶しています。本書を読もうとした時に別の本を読んでいて、そのまま忘れていたのでした。「村山知義展」を見たことでそれを思い出し、今ようやく読み始めています。言い回しの古さからして原稿はかなり昔に書かれたものだろうと思っていたら、大正13年11月20日初版だったことがわかりました。大正時代となれば、ここに書かれている芸術論は驚くほど新しいもので、斬新な論理に当時の人々は面喰ったに違いありません。当時の画壇は明治時代からの流れでパリ留学が幅を占め、そこで学んだ人々による新しい美術の潮流が画壇を席巻していたと考えますが、先端をいく芸術家にとって本書は進歩的な方向性が示されていたのではないでしょうか。村山は20代でドイツに出かけて、表現派が占める画壇に接し、マンネリ化した表現派の現状を本書で報告しています。カンディンスキーやマリネッティという芸術家の翻訳を通して、村山は次なる意識的構成主義を謳いあげています。本書の題名にもなっている未来の芸術とは、2012年現在における現代進行形のアート全般を指すものとなります。現代の眼から見れば、さらに進んだ状況がありますが、基本的には本書に書かれている通りにその後の芸術が展開していて、村山の先見の明の確かさには驚かされます。工業製品や印刷に言及しているところは現代美術そのものです。

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