窯を開ける瞬間に思うこと

陶彫制作の最終段階である焼成。窯に作品を入れた時から、窯の中が気になって仕方がないのです。今回の窯入れは、自分の作品では最大の大きさで、窯内に隙間がほとんど出来ません。しかも乾燥中にヒビが数箇所見つかって、焼成前に壊そうかどうしようか迷った作品です。駄目になるのを承知で3日前に窯入れしました。翌日、出勤前に工房に立ち寄って窯の温度を確認し、帰宅後にも工房に行って窯を見てきました。次の日も同じです。職場に行けば焼成のことを忘れていますが、職場を離れると窯がどうなっているのか不安が付き纏います。今朝も工房に行って温度を確認しました。今晩なら窯が開けられると判断しました。割れるか歪むか、また大きく裂け目が入っているか、いずれにしても駄目なら即刻気持ちを入れ替えて再制作に取り掛からねばなりません。その準備は出来ていました。そしていよいよ窯を開ける時がきました。何十年も窯と付き合っているくせに、この気分をどんなコトバで言い表せばいいのか、同じ陶をやっている人ならわかると思います。ドキドキ、ワクワク、ハラハラが一気に胸を駆け巡ります。窯の蓋のハンドルを回す時、蓋を少しばかり開けた時、きっと駄目だと自分に言い聞かせていたら、何と潰れずに作品は元のカタチのまま焼成されていました。あれ?と息を呑みました。ヒビは確かに入っていましたが、これは修整できる範囲でした。さらによく見てみないと何とも言えませんが、そのままそこに暫し立ち竦んでしまいました。何だか嬉しいよりも疲れが先行して気持ちの高揚はありませんでした。新作の窯入れは始まったばかり。幸先のいい出発でしたが、今後もドキドキ、ワクワク、ハラハラがやってきます。スリリングな面白さがあると言えば、それまでですが、窯入れが続く時はそんな冷静な気分にはなれない自分がいます。

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