苦悩漂う絵画との出会い

実物を見たことがないのに、図録だけで表現の深淵、漂う苦悩と妖気に圧倒された絵画があります。それは夏に訪れた練馬区立美術館のギャラリーショップで偶然手にした画家深井克美の図録でした。深井克美は、図録の解説によると脊椎変形という障害を持ち、31歳の若さで投身自殺をした画家だったようです。作品は自己の内面をグロテスクに表現していて、自己閉塞感のある何ともやりきれない鬱屈を吐露していると感じます。自分は20代でウィーンにいたせいか、ウィーン幻想絵画と深井ワールドの接点を見たように思いました。図録の解説にもあるとおり、R・ハウズナーの緻密な点描表現の影響があるのかもしれませんし、むしろE・フックスの象徴表現にも通じるものがあると自分は思いました。描くことで身体的苦悩から解放される欲求もあったかもしれません。絶望だけではなく透明感のある希望が頭をもたげているのも深井ワールドの特徴で、それがあるからこそ結果的に魂の救済が全体に染み渡る美しい絵画になっていると思います。生きることと描くことが一体となった絵画表現に思わず惹きこまれていくのは自分だけではないと思います。

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