複数の表現媒体をもつ

手元に「月歩き」(庄司利音著 新風舎)という詩画集があります。詩人の庄司利音さんが詩も絵も手がけたもので、詩は絵の説明ではなく、絵は詩に付随するものでもありません。詩と絵が別々の世界観をもち、2つの表現媒体が有機的に結びつき、ひとりの作家の内面を表出させるものとなっています。「月歩き」に解説はありません。「あとがき」も「あとがき」を装った詩なのです。2つ以上の表現媒体がなければ自己を捉えられない作家がいる一方で、ひとつの表現を深めていく作家もいます。自分は学生時代に絵画や詩に興味を持ちましたが、詩があまりにも拙かったため、視覚的な表現を学ぶことにしました。絵画的なものから建築的なものへ進路選択が移り、さらに工業デザインから彫刻へ、という変遷の中で、たどたどしい足取りで詩のようなコトバを綴っていたのでしたが、コトバが表現まで高まることはありませんでした。20代後半になって漸く彫刻だけを深めていきたいと願い、立体イメージに憑かれました。ところが作業できる場所がなく、版画や油画で代用することになりました。彫刻ができる環境を手に入れた今では、むしろ積極的に複数の表現媒体を使って自己表現をしたいと考えています。RECORDでは平面表現を、ホームページの画像には30年前に拙いと感じたコトバを、それぞれ復活させています。やりたいことはまだまだあって、かつて取り組んだ版画に未練があります。環境を考えた野外造形にも興味があります。今後は複数の表現媒体を楽しんでいけたらいいなぁと思っています。

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