造形美術のバイブル

「芸術の意味」(ハーバート・リード著 瀧口修造訳 みすず書房)を通勤電車の中で読み耽っています。時代の局面やひとりの芸術家を取り上げたものではなく、古代から現代に至る造形美術を網羅した本書は、自分が20代の頃感じた芸術のバイブルというイメージがあながち間違っていなかったと思っています。今回の再読もいい機会と捉えています。当時理解するには難しかったことが、今では論理全般にわたって分かりやすく感じます。これは自分が30年以上も彫刻に関わり続けた証かもしれません。世界各地の造形美術を、時代やさまざまな観点で論じた本書を携えて、実際に自分の眼で確かめてみたい欲求に駆られますが、それをするには人生が短すぎると感じます。芸術作品の鑑賞には、素朴な感受性の他に知識を学んで初めて感受できるものがあると思います。美術教育の中に鑑賞の分野が取り入れられているのは、そうした知識理解を必要としているからです。「芸術の意味」を読んで、改めて芸術の多面性に触れ、土地が培った文化の豊穣さを知ることができます。また数十年もしたら本書を再々読する機会が訪れるでしょうか。その時まで生き長らえて、多少でも自分が追い求める彫刻に近づいていることが理想です。

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