「クレーの日記」の読後感

通勤時間帯しか読書ができないので、一冊の書物を読み終えるのに相当時間がかかります。やっと「クレーの日記」(P・クレー著 南原実訳 新潮社)を読み終えたので感想を述べようと思います。クレーが39歳の時に除隊する寸前で「クレーの日記」は終わっています。第一次大戦が始まり、クレーが徴兵され、その生活ぶりを日記から窺い知ることができます。飛行機の輸送する任務にあたったり、会計の帳簿をつけていたりするクレーがそこにいて、彼を取り巻く後方部隊の様子が日記からよくわかります。戦争の動向がどうであれ、クレーは時間を見つけては絵や版画を作り、その精神的な記述も多く残されています。戦争という異常な事態にも関わらず、社会的集団的な鼓舞もなく、クレーはあくまでも個人として内面で起こる創造的な仕事に埋没しているようです。決して自己を見失わないでいることのしたたかさを感じ取ることができます。クレーが体験した兵士としての手枷足枷とは比べものにならないにしても、自分が公務員として勤務している状況の中、時間を見つけては創作活動をしているところに何か共感できるものがあって、妙なところで自分は勇気をもらいました。10代から30代後半までのクレーの生き様を、日記は生き生きと映し出していて、今回はとても楽しく読むことが出来ました。

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