「至福」ベン・シャーン

画面の下半分には麦穂がたわわに実っている様子が描かれ、農夫がそれを眺めながら一人佇んでいる絵があります。アメリカ人画家ベン・シャーンによる「至福」という題名のついた絵です。「至福」はテンペラの他に同じテーマによるデッサンや版画等がありますが、自分は大きな画面に広がる世界とパステルカラーのような微妙なニュアンスをもつテンペラが一番気に入りました。先日出かけた神奈川県立近代美術館葉山館で開催されている「ベン・シャーン展」で、自分の印象に強く残った作品を何点か挙げるとこの「至福」が入ります。まるでドライポイントで描いたような線描。塗り残しのような淡い色彩。FSA(農村安定局)の写真家ドロシア・ラングの撮影したものがイメージの土台になっているようですが、「至福」という題名がついているにも関わらず、農夫の表情はどことなく不安な面持ちをして神妙な雰囲気を与えています。麦穂はデザイン化されて気持ちのよいリズムを感じます。そうしたグラフィカルな画面が一瞬にしてその世界に誘いこむ効果を上げていると思います。図録によると「一旦取りかかったがその後3年放っておいた」とシャーンは言っているようですが、未完成と思しき部分も全体の中で生きていて、これで良しとする説得力があると私には思えました。

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