矢内原伊作から見たジャン・ジュネ

「その異常な経歴や放浪者風の生活態度から考え、また『泥棒日記』の成立の事情や宝石のようなイマージュが次々と湧き出る文体などから考えると、ジュネはいかにも天衣無縫といった言葉のあてはまる天成の詩人のように思われるが、実際はそうではなく、その一行一句が苦心して彫琢され鋭利な自意識によって研磨されたものであることをぼくは知った。彼は放浪者ではなく、むしろストイックな意志で己れを厳しく律する修道僧に近い。厳しい訓練と注意力の集中によって危険な中空を渡る孤独な綱渡りを讃えながら、おそらくジュネは彼自身の理想像を描いたのであろう。」(「ジャコメッティ」矢内原伊作著 みすず書房)先日からNOTE(ブログ)に書いているフランスの作家ジャン・ジュネに関する文章が前述の書籍にあったので紹介します。ジュネは、若い頃に放浪や犯罪を繰り返していた経歴をもっていますが、文才に長けていたことで世に出た作家です。過激で波乱に富んだ人生の中で、矢内原伊作の観察によれば、コトバの推敲を繰り返していたように思います。破天荒な人となりをイメージしていた自分には意外な一面と移りました。確かに今読んでいるジュネの著書から受ける印象は、矢内原伊作の描写に納得さえしてしまうものがあります。

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