生育・生活環境について考える

現在読んでいる「生きのびるためのデザイン」(ヴィクター・パパネック著 阿部公正訳 晶文社刊)の中に「美的に整えられた環境がいかに重要な意味をもつか、ということを証明するために」行った実験のことが書かれていました。2グループの実験用ネズミを、一方は「恵まれない環境」で育て、他方を「恵まれた環境」で育てたらどうなるかというものです。「~略~この実験の結果、恵まれたグループのほうが学習能力が大きく、精神の発達も速く、新しい刺激に対する柔軟性ないし適応性が強く、記憶力もはるかによい、ということがわかった。しかも、年をとっても精神的能力を失わずに維持していた。~略~」という箇所に注目しました。「~略~実際、ネズミたちの恵まれない環境に匹敵する人間の環境は、世界の人口の90パーセント以上の人びとの場合に見られるといってもよい。この25年ほどの間、人間の作った環境は徐々に自然の生態系の性質を示すようになってきた。連鎖、使用への反応、自己再生などである。全人類はこの新しい生態系に組み入れられているのであるが、自分たちがひとつの生息環境から追われて、いまひとつの環境へと強いられてゆくのに対して生物学的仕組みがどうように反応するか、ということについてほとんど考えをめぐらされていない。今日の社会の、いわば動物園のごとき場面を見るだけでよいだろう。~略~」という現在の環境に対して警鐘ともとれる文章が続きます。本書は論理の捉えが大きいのですが、デザインを切り口にした人としての生存に関わるものだと思っています。

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