知的活動と手仕事
2011年 3月 22日 火曜日
「キルヒナーは、1925年の自分の作品についての重要な自伝的省察において、『知的活動と手仕事の結びつきにおいて世界でもっとも美しくユニークな』芸術家という職業を彼が二元的に理解していることを明確に述べている。~略~」(「右手と頭脳」ペーター・シュプリンガー著 前川久美子訳 三元社)「右手と頭脳」という本のタイトルと、日本ではほとんど紹介されたことのないドイツ表現派の画家キルヒナーの考察に魅かれて、この本を購入しました。キルヒナーの代表作「兵士としての自画像」を窓口にして、創作活動における精神的構想または知的構想と、実践的な手仕事によるその実現を、さまざまな芸術家の作品を参照しながら述べているところに「右手と頭脳」というユニークなタイトルの所以があると思いました。「兵士としての自画像」に右手のないキルヒナーの自画像が描かれたことが契機になって、このような論証が成されているのです。簡単に言えば構想(頭脳)はアイデアで、手仕事(右手)はテクニックです。その頭脳と右手を結ぶ間に創作活動の真実が、あるいは浮かび上がるのかもしれません。大戦と大戦の間に生まれたドイツ美術のエポック。それが表現主義で、その代表とされる画家キルヒナーが、伝統的とも言える手の概念をこうしたカタチで示したことで、ヨーロッパ美術を広く思索することも楽しいと思えた一冊でした。
関連する投稿
- ドイツ表現派の書籍 「バルラッハ~神と人を求めた芸術家~」(小塩節著 日本キリスト教団出版局)を読んだ後に、「右手と頭脳~エルンスト・ルートヴィッヒ・キルヒナー《兵士としての自画像》」(ペーター・シュプリンガー著 […]
- ドイツ表現派に纏わる雑感 現在、通勤中に読んでいる「触れ合う造形」(佃堅輔著 西田書店)と、職場に持ち込んで休憩中に読んでいる「見えないものを見る カンディンスキー論」(ミシェル・アンリ著 青木研二訳 […]
- 週末 梱包作業&美術館鑑賞 今日は梅雨らしい鬱々とした天気でした。午前中は昨日から続いている作品の梱包作業をやっていました。今日は若いスタッフが2人朝から来ていて、それぞれ制作に励んでいましたが、10時半頃スタッフ2人と家内を […]
- 廃墟を描いた巨匠たち かつて人が住んでいた建物が残骸として残る廃墟。とりわけ石造建築は残骸さえ美しいと感じるのは万人にあるらしく、その欠落した建造物を多くの画家が描いています。私も時間が経過し蔦が絡まる廃墟に魅了された一 […]
- ダダに関すること ドイツ人画家ジョージ・グロッスの生涯を論じた書物を読んでいると、ダダイズムについて自分の知識の乏しさが浮かび上がります。ダダイズムは既成の芸術を壊した運動としか自分は理解していませんでしたが、それを […]
Tags: ドイツ, 作品, 創作, 書籍, 画家, 芸術家
The entry '知的活動と手仕事' was posted
on 3月 22nd, 2011
and is filed under note.
You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.
Both comments and pings are currently closed.