知的活動と手仕事

「キルヒナーは、1925年の自分の作品についての重要な自伝的省察において、『知的活動と手仕事の結びつきにおいて世界でもっとも美しくユニークな』芸術家という職業を彼が二元的に理解していることを明確に述べている。~略~」(「右手と頭脳」ペーター・シュプリンガー著 前川久美子訳 三元社)「右手と頭脳」という本のタイトルと、日本ではほとんど紹介されたことのないドイツ表現派の画家キルヒナーの考察に魅かれて、この本を購入しました。キルヒナーの代表作「兵士としての自画像」を窓口にして、創作活動における精神的構想または知的構想と、実践的な手仕事によるその実現を、さまざまな芸術家の作品を参照しながら述べているところに「右手と頭脳」というユニークなタイトルの所以があると思いました。「兵士としての自画像」に右手のないキルヒナーの自画像が描かれたことが契機になって、このような論証が成されているのです。簡単に言えば構想(頭脳)はアイデアで、手仕事(右手)はテクニックです。その頭脳と右手を結ぶ間に創作活動の真実が、あるいは浮かび上がるのかもしれません。大戦と大戦の間に生まれたドイツ美術のエポック。それが表現主義で、その代表とされる画家キルヒナーが、伝統的とも言える手の概念をこうしたカタチで示したことで、ヨーロッパ美術を広く思索することも楽しいと思えた一冊でした。

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